高齢の父親が、引きこもりで発達障害があり、暴言や暴力が何十年と続いた息子に手をかけてしまった。
そういった痛ましい事件の裁判が、この記事を書いたころに行われました。
この何とも言えない事件とその背景があらわになるにつれ、様々な思いを皆さん抱かれたかと思います。

被害者の方が亡くなられている以上、実際の状況は本当にはわかりません。
他人にはわからない事情が、双方にきっとあったと思います。
それでもこの事件をきっかけに、同じような境遇の人だけではなく、子を持つ親や様々な状況の人の多くが
「もし自分が同じような状況に陥ったらどうするか」
考えたのではないでしょうか。
そして、高齢者と関わる職業の私たちもそれは同じ。
介護の必要な高齢者を抱える家族間でも、暴力が原因で悲惨な事件になることは少なくありません。
似たようなケースの対応で、どうすればいいか悩み、そして何とも言えない無力感に打ちひしがれた経験を持つケアマネも多いはず。
☆引きこもりの記事☆
ではこういったときどうすればいいのか、何が正解か。
そういったお話です。
目次(クリックするとその項目に飛びます)
高齢者の暴力は珍しい話じゃない
ケアマネをしている私の持論なんですが、どんなに介護が必要な状態になっても、在宅で介護保険その他を駆使して生活することは可能です。
ただし、以下の3つの症状、状態が現れた場合は別。
この三つが現れ、ある一定のラインを越えたなと思ったら、在宅介護ではなく入所入院の方向で考えることをおすすめしています。
なぜならこの三つは、大きな事件に発展する恐れがあるからです。

ここでお話するのは高齢者の暴力の話。
高齢者に対する暴力や虐待は、こちらの記事に書いています。
ですが今回のお話は逆。
高齢者が暴力をふるう話です。
高齢者施設の入居者から職員への暴力
これ、どれくらいあると思いますか?
たまにニュースなんかでも取りざたされることもあるので、そういうことがあるくらいのことは皆さんご存知でしょう。
介護職のTwitterなんかフォローしようもんなら(してるけど←)、ひっきりなしに「殴られた」話がタイムラインで流れてきます。
多分その頻度は、医療介護職ではない方の想像をはるかに超えると思います。
少なくとも私は越えていました。
私は大学卒業後に未経験ヘルパー2級保持で介護業界に飛び込み、ひとつ目の職場である介護老人保健施設(老健)で働き始めました。
そこで初めて入居者に暴力を振るわれた。
かというとそうではない!
今の初任者研修とは違い、ヘルパー2級には現場実習がありました。
何日かに分けて、訪問介護と施設といったような気がする。
細かい日数は覚えていません。←
で、そこで実習に行った施設が、特別養護老人ホーム。いわゆる特養です。
私はここでの実習が面白かったので介護業界に入ったのですが、では実習で何をするかといいますと割と放置。
さほど何も教えてもらえません。
まあこれに関しては私も後々介護の仕事をして、ありとあらゆる実習生を受け入れてきたので、施設サイドの気持ちもわかります。
時間がないのに(うちで働くわけでもない)実習生に何かを教える暇などない。
そしていらんことして事故でも起こされたらかなわない。
では結果として多くの実習生が何を言われるかというと
「そこ座って入居者さんとしゃべっといて」
です。
まあこれ実はとても大事な経験なんですけどそんな話は置いといて(すぐ話それる)、入居者さんとしゃべるしかない実習で、初めて人に殴られました。
びっくった。ほんで腹立った。←
ただ横に座っておしゃべりしていただけで、いきなりお年寄りに殴られたのはとても衝撃でした。
( ゚Д゚)している私が言われた、職員さんのひとこと
「あ、その人すぐ手が出るから、離れといてね」
はよいうて。
とにかく実習の段階でわんぱん食らってるわけですから、もちろんその後の施設介護職員時代は、しょっちゅう暴力振るわれていました。
単純な暴力の時もあるし、介護の時に抵抗されて手が出る足が出る口が出る人に痛い思いされる時もありました。
老健でも特養でもグループホームでも有料老人ホームでも、この状況は変わらなかったです。
だんだんよけるのがうまくなっただけ。
あと、びっくりしなくなっただけ。
これが施設介護の現実です。
家族に暴力をふるう高齢者
ではこちらが本題。
施設入所していたら、施設介護職員に暴力をふるうわけです。
では在宅生活であればターゲットはどこに向くか。
そう、家族です。

一人暮らしで介護が必要な状態で暴力をふるう人であれば、事業所相手になるんでしょうが、家族がいればターゲットは家族になります。
もともとの性格の場合もありますが、認知症の周辺症状としての暴力が現れている場合も少なくありません。
もともと家族関係が良くても悪くても、暴力行為は簡単に家庭にひびを入れます。
それは、例の事件のように、暴力をふるうのが子どもの場合も、配偶者の場合も親の場合も同じ。
認知症の父親に、日常的に手を出されている娘さんが、顔にあざができるほど殴られたことがありました。
その時娘さんが、私に涙ながらにこう言いました。
「認知症なら何をしてもいいんですか?
病気だからって、こっちが我慢しないといけないんですか?」
介護はしなくてはいけない、でも良かれと思って世話をしているのに、気に入らないと殴られる。
でも親だからほっておくこともできない。
ほっておくことを世間が許さない。
そう思い追い詰められ、誰にも相談できずに悩む。
そういう苦しみを抱えている人は少なくありません。
でも、逃げ道がない訳じゃないんです。
解決方法がない訳ではない。
ただ、覚悟はいります。
状況を良くできるかは、家族の覚悟にかかっています。
家族が暴力をふるってきたら
実は家族には暴力をふるっても、赤の他人には手を出さない人はたくさんいます。
というよりも、だれかれかまわず手を出す人より、そうではない人の方が断トツ多いです。
これは暴力もそうだし暴言も同じ。
身内にだけきつく当たってしまうというのは、高齢者あるある。
認知症の症状のひとつでもありますが、認知症じゃなくても身内にだけきつくて、他人には態度が違う人はたくさんいます。
一番自分に近い介護者に対し、被害妄想やよからぬ作話をしてしまうのは本当によくあります。
そして、その一番世話になっている人だけ殴ったり暴言を吐いたり。
これはもうたまったもんじゃないですよね。
これだけ世話しているのに悪口を言われる、してもないことをしたと言いふらされる、逆にきちんと介護をしていてもしていないと言われる。
そして暴力を受ける。
他の人にはにこにこしていて、自分には見せない顔をするし、暴力なんか振るわない。
だから、少し愚痴をこぼしても
「そんなことないでしょ」
「気にし過ぎじゃない?」
「もっと優しくしてあげたら?」
誰も信じてくれない。
こんなにつらい思いをしているのにわかってくれない。
ケアマネの仕事は、良くも悪くも、利用者さんよりも家族さんの話を長く聞くことがあります。
なので、こういった涙ながらの訴えを聞くことも多い。
その時、こちらサイドからの返答はただ一つ。
「利用者さんと距離をおきましょう」です。
暴力をふるう家族からはできるだけ距離を取る
では具体的に、距離を取るとはどういうことかをお話していきます。

簡単にいいますと、離れる時間を作りましょう、です。
要介護度が出ているなら、デイサービスに行ってもらう。
ショートステイを利用する。
それでも状況が改善せず、家族の身の安全が保障できないようであれば、施設に入所する。
実際、この流れで在宅が難しくなった人が施設入所にたどり着くので、結果として攻撃的な人は施設に集まり、施設介護職員はよく暴力を振るわれてしまうわけです。
暴力的な家族とは上手に離れて距離を取って、お互いにストレスのない時間を過ごして、安全な生活を続けていきましょうね。
なんて簡単にいくなら世の中苦労しない!!
こんなセリフを能天気に吐くケアマネはいないはずいたらとっととチェンジです。←
世の中そんなに簡単に話は進みません。
こんなに簡単に解決するなら、事件は起きない。
では本当にこじれてしまった場合はどうしましょうというお話です。
家族の暴力を第三者機関に相談する方法とは
これね、くだんの事件でもとても言われていましたね。
行政などの第三者に相談すればよかったんだと。

私もそう思います、それがどんなに簡単ではないとしてもそうすべきでした。
でも、それは事情を知らない人が想像するよりも、もっと大変なことなんです。
例えばなんですが、認知症かなと思えば、病院に行かなければいけません。
でも、認知症だから病院に行きましょと言われて、素直に行く人はそうそういない。
行く人は行くけど行かない人は行かない。行かなきゃならない人ほど行かない。
だいたい、大の大人を病院に連れていくには、それなりに本人の了承がないと難しい。
小さい子であれば抱えていけますけど、そうはいかない。
高齢者でもそんな簡単には行きません。
ましてや家族に暴力ふるうような状態であればいわずもがな。
首に縄付けていけるもんでもない。
暴力をふるう症状が出ていれば、精神科を受診すべきですが、それこそ
となります。
ではどうすればいいのか。
ケアマネに相談する
ケアマネがついている状態であれば、まずは相談。
そこから相談先を広げることができます。
私たちケアマネは、高齢者虐待を発見したら行政に報告する義務がありますが、逆も同じ。
利用者が家族に暴力をふるっている場合も、地域包括支援センター等の機関に相談、報告をします。
まずはケアマネに現状をお知らせください。
暴力とまでいかなくても、暴言等でつらければ、先に述べたようにデイやショートステイ、入居施設を探すことができます。
ただし。
他害の恐れのある利用者は、普通のデイや施設は断られる場合が多々あることを頭に入れておいてください。
通所系、入所系のサービス共に、他の人に危害を加える恐れのある人は利用を断られることがあります。
認知症の症状が原因でそういった行為が出ている人のであれば、認知症対応型のデイサービスであれば受け入れしてくれるところもありますが、なかなかすんなりと施設は見つからない場合が多いです。
保健所(役所)に相談する
市町村によって対応する機関は違うかもしれないですが、うちの地域は、この手の暴力行為に関しての相談先は、老いも若きも保健所が対応しています。
ケアマネや地域包括支援センターはそうでもないですが、行政クラスに相談する時は本当に困っていることを大げさに繰り返し訴えないと、本気で相手にしてくれないことがあります。
忙しいこともあるでしょうし、扱う数が多いのかもしれないですが、ぶっちゃけ対応した人間によって変わることもあるというかある。
一回行って冷たくあしらわれても、めげずにトライしましょう。
だいたいここで一回冷たくされると皆さん心が折れます。
ただでさえ身内の恥を話さなくてはいけないという恥ずかしさもあるのに、冷たくされたら
「もうどうでもいいや」
となってしまいがち。気持ちはわかる。
が、折れてはいけない。
ここに至るまでに相談した、ケアマネや地域包括支援センターの職員を巻き込んでもいいので、何度も足を運びましょう。
精神科病院に相談する
一番いいのはもちろんここです。
むしろ、暴力行為がある人の場合、最終的にここにたどり着くために画策すべし。
今までの流れ
ケアマネから地域包括→行政からの紹介でここにたどり着くもよし。
主治医経由で精神科を紹介してもらうもよし。
全てがまどろっこしければ、家族だけでいきなり精神科に行って、どうすればいいか相談するもよし。
暴力行為のある人はデイや施設を断られることがあると書きました、じゃあどこに行けばいいんですかの答えはここ。
精神科の医師、看護師、相談員(精神保健福祉士)を舐めてはいけない。
ありとあらゆる症状に対応できるプロ集団です。
私は仕事でたくさんの精神科病院に行くんですけども、社会問題化しているように、何十年と入院している人はいます。けっこういます。
退院しても戻ってきちゃう人もいます。
その良しあしについては考えていかないといけないけれど、暴力が原因で在宅生活が難しくなってきたら、頼る先として精神科病院は頭に入れておく必要があると思います。
暴力行為を薬でどうにかすることに対して、人権的な問題を唱える人も多いですが、考えてください。
家族に暴力をふるうような人生、きっと本人もつらいです。
ある程度気持ちを抑える対応をしてもらう方が本人も楽だと思うのですが、いかがでしょうか?
私は、ある一定上のラインを越えたら、医療の力を借りるべきだと思っています。
まとめ
ここでは主に高齢者の家族への暴力の話をしましたが、この問題は非常にデリケートで、表面化しにくい。
誰だって家族が暴力をふるうとは言いたくないし、暴力を振るわれている自分を恥ずかしいと思うこともあるし、誰かに知らせると余計怒らせるのではないかという恐怖もある。
はじめに述べた事件が悲惨な結果に陥ったのは、こういう事情が大きいんだと思います。
でも、家族間の暴力問題は、悪化することはあっても改善することはまずない。
もっと歳を取って弱ったら何もしなくなるかもしれないけど、そこまで待てますか?
自分の人生そこまで犠牲にできますか?
私の昔の利用者さんで、妻に暴力をふるう人がいました。
ある日妻が全財産を握りしめて家出しましたライフライン全部止めて。
私はこれが一番正解だと思う。
危険を感じたら、何はなくても逃げればいい。
全財産握りしめてライフライン止めるんはやりすぎやけど←
それくらい心を鬼にしないと問題は解決しません。
そして上手に第三者に頼ってくださいね。
介護職員への暴力の記事ものちに書いています→「利用者による介護職員への暴力やハラスメントをどう防ぐか |介護のいろんなコト。 (fuunokaigo.com)」