認知症になると、いろいろな症状が現れます。
物忘れ、被害妄想、同じ話をしつこくする、暴言暴力徘徊等々…。
仕事柄「認知症ってどんな風になるんですか?」と聞かれることは多いのですが
としか答えようがありません。
それくらい人によって症状が違う。
認知症については他にも記事を書いているので、よろしければご覧ください。
そんないろんな症状が出る認知症で、これだけはわりと皆さん共通しているということがいくつかあって、そのうちのひとつが
一番身近な人にこそ攻撃的になったり、被害妄想が強く出る
というもの。
認知症になったからといって、攻撃性や被害妄想は必ず出るわけではないけれど、出るとしたらけっこうな高い確率で一番身近な人間に出ます。
同居している娘には出ないけど、年に数回会うだけの息子に攻撃的になるってことはあんまりない。
そしてこれの破壊力はハンパない!!
一番親身になって介護をしている自分だけがやり玉にあげられるつらさは、はかり知れません。
だからものすごく腹が立つし介護なんかしたくないわとなります気持ちわかりますそらなるでしょ。
わかりますが、なぜそうなるのかのメカニズムを解明したいと思うので(大げさか)、もしよろしければ
「こんなに一生懸命介護しているのにきつく言われてつらい」
という、当事者の方にこそ読んでほしい。
そして当事者ではない人ごとのあなた、もしお知り合いもしくはお身内の高齢者さんが、ものすごく身内の悪口を言っていたら。
言っていたとしたら!!
もしかしたら、そんなこと言っているけど、その人にこそ本当は一番お世話してもらってるんじゃないかななんて、少し勘ぐっていただけたら幸いです。
事実と違うことを周りに訴えられて、それを信じて責められることほど介護していてつらいことはないのでね。
目次(クリックするとその項目に飛びます)
認知症のはじめに不穏になりやすい理由
まずこのお題を記事にしようかなと思った理由として、今絶賛この手のケースで大変なことになっているからですなう。
おばあさんが毎日荒ぶっているのです。
いわゆるこちらの業界用語の「不穏(ふおん)」状態というやつです。
おばあさんはアルツハイマー型認知症で、着々と症状が進行しています。
その中で一番大きな症状は「物忘れ」。
普通のレベルの物忘れとは違います、認知症特有の「すべてがなかったことになる」物忘れです。
素人とはケタが違います。
でおばあさんは強烈な物忘れのプロなので、鍵をなくす携帯なくす通帳なくすしハンコもなくす。
ヘルパーの日時も自分がデイサービスを希望したことも前の日に病院に行ったことも全部忘れる。
が。
自分が認知症である自覚はありません。
この時のおばあさんの脳内を想像してみましょう。
なんでやろここに置いてた鍵がないわなんでやろ鍵がないと大変なのに
まさか私がどこかになくした?いやそんなわけない、私がなくすわけがない
そうだわこないだ娘が来てたから鍵を勝手に持って帰ったんだわ!!
何急にヘルパーですって来て勝手に家の掃除して誰も頼んでないのに
え、おたくどちらさん?デイサービス?なんで私がそんなところに行かないといけないの?
さては娘が私を認知症扱いして勝手に決めたんだわ!!
オーノーいうて言うて天を仰ぎたくなりますが、もちろん娘さんは鍵なんか持って帰ってないし、ヘルパーもデイサービスも、本人交えて会議して決めてるし。
何なら予定を大きく紙に書いて貼ってんじゃんほらそこに!!
て言うても仕方がないのです、忘れてんだから。
で、この手の症状は認知症のはじめに多いんですが、ようするにね、心のどこかで
まさか認知症?
いやそんなバカな…
うすうすね、認知症の自覚があるんですよね本人に。
でもね、絶対に認めたくないのですよ。
私の経験上、こういう身近な人に攻撃的になるタイプは、自尊心が強い方が多いですね。
ということで、今現在そのおばあさんの訴えとしては
娘が自分の財産を狙っている、(遠方に住む)他の子どもにお金を送っていると疑っている、私を認知症扱いしている、必要がない介護サービスを使わせようとしている、鍵を盗んでいる等々
多岐に渡っていますが、突き詰めて聞くとつじつまは合わず、根拠がないことがほとんどです。
突き詰めないけどね。
認知症の人が身近な人にこそキレる理由
被害妄想や不穏の対象には、身近な人がなりやすいというのは前述しました。
身近で一番日常のお世話や介助をしている人がなりやすい。
それはなぜかというのはよくわからないのですが←
単純に、会う回数や関わる頻度が高いから、インプットされるのかなと思ってみたり。
あとはその「介護」そのものが、本人にとって不必要なことなので、それをする人間に腹を立ててるのかなとか思ってみたり。
この激おこおばあさんの場合は、娘さんがとても協力的で、訪問介護やデイサービスを導入する時の担当者会議には必ずこの人が来ています。
そして、「私を認知症に仕立て上げるために」心療内科にも連れていきます。
多分、おばあさんのはらわたが煮えくり返るような場面にいつも同席しているのがこの娘さんであることが、被害妄想の原因なんでしょう。
特技「物忘れ」のはずのおばあさんですが、心療内科で認知症のテストをさせられたことや、頭部のMRIを撮ったことなんかはばっちし覚えています。
ものすごく腹が立ったことに関しては覚えている。
そしてその場にはいつも娘がいる。
これですわ。
理由これですわ(結論)。
で、この場合「いやよいやよも好きのうち」、「怒るのは愛情の裏返し」とか言いたいんだけど、残念ながらそうではない。
おばあさんは娘さんに、心底腹を立てているのです。
これで介助者さんがショックを受けて、家族関係がおかしなことになることはもちろんあります。
そらなるでしょう。←
ものすごく良くしている人ほど攻撃対象になり、他の人に悪口を言いふらされ、それを周りの人が信じて責められたりしちゃうんだから。
そら嫌いにもなるだろう。お察しします。
認知症で攻撃的な時期はいつ終わるか
認知症が原因での不穏や攻撃的な状態はいつ終わるのか。
それは誰にもわかりません。
神のみそ汁ちがう神のみぞ知る。
ていうか多分神にもわからんと思う。
私の経験上半年で終わった人もいるし、一週間くらいで終わる人もいるし、治ったりひどくなったりを繰りかえした人もいるし。
いつまでも言い続ける人もいるし。
ただ、ひとつ言えるのは、この症状が「認知症が改善することによって」なくなったり、繰り返しその勘違い等を説明することによって、状況を理解して終了することは
ないです(キッパリ)。
というか私はそんな人出会ったことないです(キッパリ)。
ただ、前述したように、身近な人への攻撃って、自分が認知症なはずがないと葛藤している初期にこそ多いんですよね。
この時期は本人はむちゃくちゃしんどいです。
もう気の毒なくらいしんどい。
自分のできなくなってきたことを認めたくなくて、他の人に責任転嫁しなくてはいけない様子は、見ていて痛々しいほどです。
だから私たち業界人は、不謹慎ながらいつもこの時期こう祈ります。
認知症による不穏の解決方法
ではこの認知症によって身近な人に対し攻撃的になったり、不穏になる症状がどうすれば治まるかというと
繰り返し言いますが、神にもわかりません。
でも先ほど少し述べたんですが、皮肉なことに認知症の進行により治まることは少なからずあります。
つまり、認知症が進行することで、自分が認知症かもしれないと悩む時期が過ぎる。
わからないことが増えたり、他に気になることができたりして、攻撃的な症状が消える。
それはあります。
次のステップに進むので、他の症状が現れるにしても穏やかになったり。
必ずではないですけれども。
なので私たち介護職側は、今回のおばあさんに対して
今はそんな感じで見守っています。
とはいえ認知症にじゃんじゃん進行してくださいというのもおかしな話だし、その時期がいつ訪れるかは誰にもわかりません。
じゃあそれまでどうするか。
これはもう、攻撃のターゲットにされている人が距離を取るしかないです。
ようするに、一番顔を合わせて一番自分にかかわりを持つ人に攻撃をするのなら、顔を合わさなきゃいいんです。
会いに行く回数を減らしたり、同居であればフルでデイサービスやショートステイを利用したり。
必要以上に本人にかまうのを辞めたり。
かまうのを辞めた時ありがたみに気づくこともよくある話で
この攻撃的な時期の人は、身の回りのことは自分で結構できる人が多いので、そっとしておいてあげるのも一つの方法かなと思ったり。
これをしておかないと困ることになるだろうと先回りするんじゃなくて、本人が困ってから手を差し伸べるとかね。
この辺は子育てに近いですかね。
本人が、自分はまだまだ何でもできるのにと思ってるのなら、危険のない範囲で放置するのもありだと思います。
介護サービスさえ導入しておけば、あとは介護職員がどうにかします。
そして、本当に家族さんに何かしてもらわなければいけないときは、声がかかります。
それでもダメな時には、お医者さんに相談して、気持ちが楽になるお薬を処方してもらうのもいいでしょう。
とにかく攻撃している時間は、本人が一番しんどいですから。
血圧も爆上がりするし、体にもよくないです。
何より攻撃されている対象者ももちろんつらいですしね。
認知症というのは、医学的にきっちり解明されているわけでもないし、理不尽な言動が現れて、周りの人間がつらくなることも少なくありません。
抱え込まずに、ぜひケアマネやその他の関係者に相談してくださいね。
あとは最初にも書きましたが、高齢者が一番近しいお身内さんの悪口を激しく言いつのっているときは、間違ってもそのお身内さんに
「そんなんしたらあかんよ!!」
というんじゃなくて!!(めっちゃある)
「えらい悪い子やねんなあ!!」
信じきって同調するんじゃなくて!!(めっちゃめちゃある)
すこーーしだけ。
すこーーーしだけ
「ほんとかな?」
と思っていただけたらこれ幸いです。
「認知症でウソついてんじゃないの?」
て疑うんじゃなくて(これもある)
各々の家庭には各々の事情があるんだなと思っていただけたら、これ幸いです。