訪問介護。
それは、資格を持ったヘルパーさんが自宅に訪問し、介護をしてくれるサービス。
介護保険のサービスの中で、最も知られているといっても過言ではないサービス。
キングオブkaigoサービス。
訪問介護の基本は、「本人のできないことを」支援することです。
お手伝いさんや家政婦さんとごっちゃにされることもありますが、全然全く根本的に違います。
ケアプランに基づいて、法律に基づいたことしかできない、プロが行うれっきとした介護サービスなのです。
そんな訪問介護には、体を触る「身体介護」と、いわゆる家事を行う「生活援助」の二種類があります。
「身体介護」 食事、排泄、移動や入浴、更衣、移乗等
「生活援助」 掃除や洗濯、調理や買い物代行等
くわしくは 「訪問介護をくわしく説明① 基本の知識と訪問介護の時間と単位の算定方法|」に書いてます。
需要が多いのは、圧倒的に生活援助。
そして、実は導入が難しいのも生活援助。
とくに!!女性が!!!難しい!!です!!!!
女性利用者への生活援助導入は本当に難しくて、もめることも多いし、成功しないことも多い。
実際最近うまく生活援助の導入が進まなくて、ケアマネとしてやや落ち込んだことがありましたので(泣いた)(ウソ泣いてない)(泣くわけない)、そういった反省も踏まえて。
その理由や対策をお話いたします。
目次(クリックするとその項目に飛びます)
なぜ女性利用者が生活援助を嫌がるのか
今これを読んでいるあなた。そうあなた。
あなたは女性ですか?
女性じゃなくてもいいです(いいんかい)、普段家事をしていますか?
家事をしているなら、家事は好きですか?それとも嫌いですか?
自分なりのこだわりのやり方はありますか?
今のご時世の男女ではまた事情が違うでしょうが、今私が仕事で関わっている利用者さんの世代は、家事はおおむね女性がされていました。
そして、「家のことをきちんとしている」ことが、女性としてのアイデンティティにつながっていた方が多いんです。
そうすると、家事ができないイコール、自分の存在価値がなくなったと思ってしまう。
もちろんみんながみんなそうではなくて、そう思ってしまう方というのは、おおむね認知症が原因で家事ができなくなった方なんですね。
認知症ではなくて、ほかの理由で家事ができなくなって、生活援助を導入する場合は
・自分が何ができて何ができないかを、本人がきちんと把握していて
・できないことをかわりにヘルパーにしてほしいという、明確な意思が本人にある
んです。
これは正しいケアプランの流れ。
聞き取りをして本人さんの意向を聞いて、できないことしてほしいことをケアプランに入れて、訪問介護事業所を探してヘルパーを導入する。
これは揉めません。揉める要素がない。
だって本人の希望で導入してるもの。
では認知症の方の場合はどうか。
認知症の方の多くは、本人さんの状態を見かねた家族さんからの依頼でサービスを導入します。
認知症により、買い物が調理が掃除が洗濯が、できなくなる方は少なくないですが
私認知症で家のことできなくなったので
ヘルパーさんに来てほしいんです
と本人さんが言われることはない。
絶対にない。
むしろどんなに家が荒れていようと食事が作れないどころか食べられなくなっていようと、洗濯何となくできるけどしてること忘れてずっと洗濯機に洗い終わったんが入っていようと。
未来永劫干されることがなかろうと。
本人が困っていることが少ないんです。
というか、困っていることがわかってない。
困ってないし自分ではやればできると思っているし、そもそも家事をすることが自分のアイデンティティアである以上、家事ができなくなったとは絶対に思いたくないし思われたくない。
自分が認知症かもしれない、と思っている微妙な頃だとよけいですね。
私がなにもできなくなったといいたいのかと。
人をボケ老人あつかいしてからにと。
なので認知症の女性の生活援助導入は拒否されて嫌がられて必要ないと言われて何しに来たんと言われてそもそもあんた誰と言われがち。
がち。
だからと言って、家事が全くできていないと、実際問題生きていくのすら難しい場合がありますから。
お国は生活援助サービスを心底バカにしていて、いつかなくそうとしてますけども。
このサービスがあるから在宅で過ごせる高齢者は、ものすごくたくさんいるわけです。
それだけ大事な生活援助。
本人さんが拒否してるからやめときましょかで(済ませたいけど)、そうもいかない場合が多々あります。
多々ありますから、なんとかしなくてはいけないわけです。
ケアマネの名にかけて。
認知症の方のサービス介入で気をつけること
ケアマネの名にかけて何とかすると言いましたが、実はケアマネにできることは何もありません(え)。
すべてはヘルパーさんのここ(腕パンパン!)にかかっています。
例えばゴミ出しが全くできていなくて、家中にゴミがたまっている。分別もできない場合。
ゴミたまってますね、出しましょうかと本人さんに尋ねても答えはひとつ。
いや、私出しときますから大丈夫です
もしくは冷蔵庫の中に消費期限切れの食べ物があふれんばかりになっている。
同じものをいくつも買ってきてしまうので、かまぼこが12個たまってたりする(これ実話)(しかもほぼ汁になってる)。
この辺の(超絶カビ生えてるやつ)期限切れてるし捨てときましょうか?と本人さんに尋ねるとします。
私捨てときますから大丈夫です
大丈夫なんですよ。
実際問題大丈夫かどうかはここでは問わない。
本人の中では大丈夫。それがすべて。
洗濯が全くできてない、本人さんに(以下略)
私(中略)大丈夫です
大丈夫なんですよ。大丈夫なの。
手伝ってもらわなくて大丈夫なの。
大丈夫や言うてんのに手伝ってこようとするのは、私のこと年寄りあつかいしてるのかもしれない。
もしかしたら、ボケてると思ってるのかもしれない。
と!
思わせたら!
終わりなのですよ!!!
認知症の方へのサービスの介入で、いちばん大切なのは、自尊心を傷つけないこと。
認知症の場合だけでもないけど、できていたことができなくなる、それも自分の自信のあることができなくなるというのは。
ほんっっっとに!!!
ショックなものなのです。
だからですね
いや大丈夫とか言ってるけど、できてないじゃないですか
とかね!
絶対いうたらあかんの。あかんのよ。
これさすがに介護事業者は言わないけど、家族さんとか言っちゃうんですよね。
まあそこを「私はできません」て認めさせないと、なにも始まらないと思っちゃうからなんですけど。
私らにたいして申し訳ないと思ってくださるからなんですけど。
それはね、絶対言うてはいかんのです。
なにもできないでしょとか言ったら本人さんが傷つく。
という理由ではない。(こともないけど)
たんにこじれるからです。
関係もこじれるし本人の自己イメージもこじれるし、なんにもいい事ない。
ややこしなるだけ。
だから、
私はなんでもできるから大丈夫
と言われたら、答えはひとつ。
ですよね!さすがです!!
( ノ゚Д゚)ヨッ!
と、決して否定せずに、そりゃそうですよーなんでもできますものー!としておいてからの。
ここ(腕パンパン)の見せどころです。(また言うた)
認知症で生活援助を嫌がる方への対応方法
対応方法といいましても、唯一無二の答えというのはありません。
あの手この手で、何が正解かを探していくしかないのです。
訪問介護だけでもないのですが、サービスを導入する時は、基本的には1番初めはケアマネが利用者さんにお会いします。
ケアマネがアセスメントし、何ができて何ができていないかを聞き取ると同時に
利用者本人の性格がどういうタイプか
をきちんと把握する。
これが実はとても大事。
(ひっそりと家族さんの性格も把握←)
まずケアマネが状態の聞き取りをして、訪問介護事業所にその情報を伝え、そこから事業所さんが動くわけです。
その時本人さんの雰囲気や性格、嫌がりそうなことや喜びそうなことはできるだけ細かく伝える。
そこから、うまくサービスにつなげられるように、事業所さんと作戦を練るというわけです。
たとえばなんですが
むちゃくちゃ明るくてよく喋る利用者さんであれば、マシンガントークの勢いで家事をしてしまうとか。(気づいたら家きれいなってんな作戦)
すごく警戒心が強くて人見知りな方なら、まずは顔を覚えてもらって、仲良くなることに重きを置くとか。(あの人悪い人じゃないしちょっと手伝ってもろてもええかな作戦)
プライドがめちゃくちゃ高い方ならとにかくそこいらへんにある物をほめてできていることをほめつつ、へりくだりながらも利用者さんができていないことを「わたしでよければさせていただきますね!」と持っていくとか。(太鼓持ち作戦)
息子溺愛してるなら息子をこれ以上ないくらいほめている隙に掃除してしまうとか。(ついでに嫁の悪口ついてきがち作戦)
いろいろと考える。
なので、最初の性格ジャッジを誤るととんでもないことに発展しますので(人見知りにマシンガントークとか単なる地獄絵図)、人を見る目がケアマネにはとても大事なスキルだと思います。
よう失敗するけど。
誰が来てもウエルカムなご様子ですとか言うといて、ヘルパーさん行ったら怒って返されたりとかもあるけど。
平謝りです。
なんせしっかりと人となりを見て、本人がしんどくない、嫌な気持ちをしない方法を模索し、介護サービスを提供していく。それが基本ですべて。
なお、今日うまいこと行った作戦が次に成功するとはかぎりません。←
それが介護のおもしろさ!!!!(むりにまとめた)
生活援助は嫌がられて当たり前だと思って導入する
とにかくいろんな作戦をねりながら、怒られても失敗しても、よほどでなければサービスを継続する。(ヘルパーさんが!)(お疲れ様です!)
嫌がってるならほっときゃいいじゃんと思われるかもしれないですが、むしろ認知症の女性で、生活援助を嫌がらない方の方が珍しいので、
いやです
言われて引いてたら、なにもできないんです。
嫌がられても不審がられても、時間をかけて本人さんのよい方法を探しながら、サービスを続けていく。
そうするとほとんどの方が、いつかはヘルパーさんを受け入れてくれるようになります。
し、サービスを喜んでくれるようになります。
きちんとした生活というのは、やはり人間の基本。
ヘルパーさんが来てくれて家が整えば、なんとなく気持ちいいもんだなと思ってもらえたら、もうゴールは近い。
ただ、そこに行き着くまでにかかる時間というのは人それぞれなので、それこそ数ヶ月も数年かかることもある。
それはわたしら介護職は覚悟の上。
なのですが。
サービス導入がうまくいかないケースというのも、もちろんあります。
ひとつは、本人さんが何がなんでも拒否の場合。
なくはないです。
作戦全部決行しても、全部撃沈することもあります。
訪問介護でヘルパーさんが入っている以上、何か必ずサービスを行わなくてはいけません。
喋ってるだけとか、見てるだけとか(希望されること多いけど)、それだけでは算定できないんです。
だから本人が頑なに家事をさせてくれなければ、これはもう導入が難しい。
撤退するしかありません。
でも、私調べでいちばん多い撤退理由は、家族さんが
もう本人嫌がってるしヘルパーやめます
という例。
これめちゃくちゃ多い。
最近2例くらい、立て続けにこのケースがありました。
家族ギブアップケース。
はじめは家族さんが頼んできたのに同じ人が断ってくることもあるし、いきなり出てきた違う家族さんが断ってくることもある。(これのややこしさは天下一品)
本人さんが
ヘルパーなんかいらんのに!
断って!!
と家族に訴えることは、多々あるというかほぼあるあるなのですが、そこで耐えられるかどうかというのは、本人さんの不穏具合もあるし家族関係もいろいろある。
私ら的には
もういやがってるし、ヘルパーさんやめときます
と家族さんに言われて
ですね!これはもうむりですね!
ていう時もあれば
いやいや、このままいきましょうよ、もう少し様子みましょう
と言いたい時もあるし言うんですけども、本人家族がいらんというたサービスは導入できないですから。
それでもいらないと言われたら、撤退するしかありません。
訪問介護に限らず、嫌がる本人さんに家族さんが耐えきれずにサービスを断るというのは、この業界あるある。
お気持ちはわかりますし、もちろんその選択も間違いではありません。
ただひとつ覚えておいていただきたいのは、
サービスを導入しなかったことで、本人さんの気は済んでも日常のいろんな問題は解決していないまま
となることがあり得ます。
というか、そらそうなります。
そもそも困りごとがあるから、訪問介護導入したわけですし。
ですからお断りがあった時には、この先こうなってしまうかもしれないですよ、という予測はお伝えするようにしています。
断ったあと、ほかのサービス使ってくれていたらケアマネとの関わりは続くんですが、そうでなければケアマネとの関係も切れてしまいます。
そうすると、なかなか良いタイミングでサービス再開というのが難しく、その判断を家族さんがしなくてはいけなくなります。
と、こういう書き方すると、
ケアマネの提案してくるサービスは
どんなに本人が嫌がっても利用しないといけないのだろうか
と思われるかもしれないですけど、もちろんそんなことは!!全く!!!
ございません!!!!
というのはですね、他人(つまりケアマネとかヘルパーさん)には我慢して穏やかにされていても、家族にはめちゃくちゃあたりがきつかったりとかね。
私ヘルパーなんかいらないって言ってるでしょ
という電話が一日中かかってきたりとかですね。昼夜問わずにね。あったりとか。
家族への攻撃力のすごい方おられますから。
家族さんにしかわからない苦悩というのはありますから。
つまりここで言いたいのは、
もしあなた様のご家族が、訪問介護をヤダヤダというて全拒否していても、それはみんなおんなじですよと。
気にしないでねと。
嫌がるからヘルパーさんに申し訳ない、だからもうやめようとか思わなくてもいいですよと。
言いたいし言いましたので、最後にまとめ。
とにかく訪問介護の生活援助は、頑なにいやがる女性が多い
でも必要だと思ってくれる日がくれば落ち着く
そしてその受け入れる日はほとんどの人に訪れるし、来なけりゃ来ないでプロとして私らはうまく対応していくので
嫌って言うてるから無理です
と、すぐに、結論づけないでもらえたらなあと思います。
みんな嫌がるんです、大丈夫です。
嫌がられながら介護するのは、私ら慣れてます。(泣いてへん)
なお全然関係ない話ですが、私は大喜びで生活援助を受ける自信しかありません。
さらに関係ない話すると、女性は生活援助を嫌がりがちで、男性はデイサービスを嫌がりがちです。
しかし後者はたいがいすぐになじみます。
あんなに嫌がってたのに!てくらいなじみます。
そういうもんです。話それました。
もしどうしてもヘルパーさんは無理だけど家をきれいにしたいなら、民間のサービスなら抵抗ない人もいます。
自由度が高いので。

介護保険のサービスは開始が大変なので、この辺の民間サービスを利用してみて、抵抗がないなら訪問介護を開始するのもあり。
生活援助が必要なほどの認知症の方であれば、他にも生活で困りごとがあるかもしれません。
それがヘルパー導入により浮き彫りになることはとても多いので、もし本人さんが嫌がるから無理だなあと思っている方も、一度ケアマネに相談してみてくださいね。
では~