高齢になり、余命を宣告されたとき。
在宅で、最期まで過ごすことは可能でしょうか。
私は長い間介護の仕事をしています。
居宅のケアマネになって丸10年です。
末期がん、老衰、心機能の低下その他もろもろ…。
何らかの理由で余命が医師から説明されたとき
在宅生活のプランナーである以上、この話は避けては通れません。
とはいえ、高齢者介護の仕事をしていても、いわゆるターミナルケアを意識することはそう多くはありません。
厳密に言っちゃえばみんなターミナルなんだけど、それ言っちゃうと私らだっていつ何時どうなるかなんてわかんないし、そうなればあれ人類皆ターミナル?
話を戻しまして、実際問題私が「きちんとした」ターミナルケアとして在宅で最期を迎えるお手伝いをしたのは、片手にも満たない人数です。
そしてその中で、最期の瞬間を自宅で迎えた方はいません。
あくまでも私の場合は、です。
でも、こないだ受けた主任ケアマネ研修でターミナルケアの講義があった時、ケアマネからはこの看取りについて苦労した話があふれ出て
会場が一体に包まれました。
\(^o^)/
はたして介護サービスを利用して、在宅で最期を迎えることは可能なのか。
私のいくつかの事例をお話していきますね。
目次(クリックするとその項目に飛びます)
老衰によるターミナルケア
ここで登場するのはAさん女性。
私が過去担当した中で一番の高齢者でした。余裕で3ケタ歳です。
とてもお元気だったのですが、ある時転倒し骨折したことで、あっという間にADLが低下し、ほとんど寝たきりになってしまいました。
それに伴い全身状態も悪化し、おそらく老衰なのでそう長くないのでは、と医師よりお話があったのです。
このAさんと一緒に暮らしていたのは娘さん。
おそらくですが結婚歴はなく、とても仲が良い親子である反面、お互いの依存が強かったので、もともと少し心配なところはありました。
Aさんが寝たきりになったことで娘さんはパニックです。
娘さんもそれなりに高齢でもあるし、Aさんは体が大きかったので、在宅では難しいのではないか。
サービス事業所はそう思ったし、医師も施設入所を勧めましたが、娘さんがお母さんと離れたくないと言われ在宅に戻りました。
ここからまあ大変でした!!
何が大変って、そりゃ導入した訪問看護のやり方が気に食わずもめたとか、通院が大変と訴え騒ぐとか、ヘルパーの利用を勧めても家に人を入れたくないと断ってしんどくなっちゃうとか、もう一度歩かせてほしいとリハビリの先生にスパルタを求むとか
そんなんはいいんです。
よくある話なんです
一番みんなで困ったのは、娘さんが
おかあさんがもう看取りの段階であることを認めなかったこと。
覚悟を決めないと在宅ターミナルケアはできない
これはもうほんとに大変でした。
まさか、3ケタ歳のお母さんがもう長くないとか、想像もできないって言われるとは。
そんなわけないと言われるとは。
気持ちはわかるんですけど、ターミナルと認めてくれないと進まない話があるんですよ。
急変しても家でみるのか病院に運ぶのか。
延命処置はどこまで行うのか。
このあたりの話が全く進まず、Aさんは弱っていくばかり。
何度も会議を重ねて話し合っては、事業所間で
「看護師が言いなさいよ」
「いやケアマネが言いなさいよ」
「一番訪問少ないんだから、もめてもいいレンタルがぶっこみなさいよ」
譲り合いいや押し付け合い。
小康状態を保つAさんは、合間に脱水やなんやで入院します。
その度持ち直し、退院後どうするかのカンファレンスが行われるのですが
「在宅に連れて帰って面倒をみます」
「リハビリもさせます」
「延命処置とか考えられませんまるでもうすぐ死ぬみたいに言わないで」
医師もなかなか厳しく言いますが娘さんも手ごわいです。
在宅に帰る→介護が行き届かず状態が悪くなり入院する→良くなって退院する→はじめに戻る
これ何回やったっけな(遠い目)
とはいえ、こんな書き方してたら娘さん悪者みたいだし、ちょっとフォローさせてもらっていですか?
いくつになっても親の死に目なんて想像したくない
この時期一番娘さんが心を許していたのは私だと思います。
ひっきりなしにメールが来てました。
私思うんですけどね、やっぱりいくつになってもお母さんはお母さんなんですよ。
とくにここの親子さんは70年以上一緒に暮らしてきたんですよね。
しかも転倒するまではAさんほんとしっかりしてたんで、ずっと頼りになるお母さんやったんです。
そのお母さんがいきなり倒れました
もう長くないと言われました
この先どうするか考えろ
挿管はするのか胃ろうはするのか心臓マッサージはするのか決めろ
知 ら ん が な !!!
てなったんじゃないかな。
そりゃ一般的には超高齢なんだから、いつ何があってもおかしくないし、娘さんも全く考えたことがない訳ではなかったでしょう。
でもいざとなった時、心が考えるのを拒否してたんじゃないかな。
医療関係者はこの辺やっぱりずかずか聞いちゃうので、フォローするのはケアマネの仕事じゃないかなって思います。
在宅ターミナルケアが長引いた場合
この状態が2年近く続いたと思います(長)。
そう。
ターミナルと思わせといて長引くパターンはある。
介護の難しいところは、この「先が読めない」ところ。
不謹慎ですが、いついつにお亡くなりになるとはっきりわかっていれば、お金も体も多少無理することができますが、決してそうじゃない。
Aさんの状態が良くなったわけではないので、娘さんの負担も大きく、だんだんと疲れが見えてきます。
家で最期まで看取りますと言っていた娘さんの疲れが限界に来た時、またAさんの調子が悪くなりました。
在宅で看取りをこなすのであれば、この場合は病院に運ばず、訪問看護や訪問の医師に来てもらい、最期を待ちます。Aさんもその予定でした。
延命処置はしないけど、苦痛は取り除き、在宅で看取る。
予定でした。
しかしながらいざAさんが飲食できなくなった時、娘さんは
「やっぱり治してほしい」
そう思い、救急車で病院に搬送しました。
搬送先は今まで行ったことのない病院。
到着後、延命処置を受けましたが、一週間もしないうちにAさんは亡くなられました。
何かが悪かったわけではありません。
誰かが悪かったわけでもありません。
ただ、私もターミナルになってからずっと深くかかわっていましたが、死にゆく姿をただ見ているのはかなりな覚悟がいる。
ホントそう思います。
3ケタ歳でもそうなんです。
これ以上ないくらい天寿を全うされてもそうなんです。
ここが在宅での看取り、ターミナルケアの一番難しいところだと思います。
Aさんは生前よく
「娘は一人だから、できるだけ長生きしないといけない」
そう言って笑っていました。
母としてとても気持ちがわかります。
以上がとあるターミナルケアの一例です。
Aさんはターミナルと宣告されてからが長かったケースです。
Aさんも大変でしたが、もっと大変だったターミナルケアもありますので、お次はそちらのお話をしましょう。