認知症という言葉を聞いたことはありますか?
この質問に対して、ほとんどの人「はい」と答えられると思います。
十数年前までは「痴呆」という言葉で表現されていた認知症、単語としてはかなり周知されてきました。
では、実際に認知症の人と関わったことはありますか?
もしくは、認知症になるとどういった状態になるかわかりますか?
ここまでの質問になると、「はい」と答えられる方はずいぶん少なくなるのではないでしょうか。
認知症って聞いたことはあるけど、実際のところはどんなもんかよく知らないなという方はわりと多い。
今回お話したいのは、認知症の方への対応の話。
認知症のお話は今までにもしてきました。
そこからもう一歩踏み込んで、認知症の人の世界はどういったものなのか
それに対する正しい対応はどんなものなのか
認知症を理解しそして適切な対応方法を取るために、少し長い記事にはなりますが、読み進めて頂ければ幸いです。
目次(クリックするとその項目に飛びます)
認知症の人の世界を考えてみよう
ではまず、認知症の人が住む世界はどんなものなのか。
少し想像力を働かせて読んでみてください。
私は40歳の働く母。
子どもが二人、中学生と小学生がいて、一応配偶者もいて、日々仕事に家事に子育てに忙しくしています。
朝になれば配偶者を起こし子どもを起こし、朝ごはんを作り送り出す。
みんなが学校や仕事に行ったら自分も出勤。
ケアマネとして毎日一生懸命働きます。
仕事が終われば買い物に行き、急いで帰って晩御飯を作り、洗濯掃除に子どもの世話に配偶者の世話に犬と猫まで
そこに一人のおっさんが現れてこう言いました。
今は80越えて一人で暮らしてるんだから、そんなに買い物行かなくていいじゃないか
は?
俺やんか、息子やんか
は?
いやいやいやいやこの見知らぬおっさんが我が子なわけがないし!
うちの子はまだ中学生だし!
だいたい買い物なんか行かなくていいって何言ってんの!?
じゃあ誰が代わりに買い物行くの?
ご飯も作らないといけないし忙しいし、ちょっとそこどきなさい!!
ほんと失礼して頂きたいですよね人のことBBA扱いして
変なおっさんが出てきて私の息子とか言い出してさてはこれ詐欺ではあるまいか
私のこと騙そうったてそうはいかないんだから!!
プンスカスンと私は怒り出すわけなんですが、実際は息子が正解。
知らんおっさんではなく、40年後の息子の姿なのです。
そして私はとっくに仕事も引退し寡婦になった80歳。
おっさんが正しい。
おっさんは必死です。
だって80歳になった母親が脳内40歳で止まっていて、どれだけ止めても買い物をして冷蔵庫の中があふれかえってしまう。
ご飯だってもちろん作らなくてもいい、一人だから配食弁当を利用しているのに
お母さんは聞かないこの辺の頑固さは昔と変わらない。
しかも毎朝仕事に行こうとしている。
家から出たら、帰ってくれなくなるかもしれないのに。
でも私の立場になってみてください、私は40歳のつもりなんです。
いきなり現れた知らんおっさんに
とか言われてごらんなさい。
頭の中パニックになるかぶちぎれるか、このおっさんに騙されていると被害妄想炸裂するかです。
そしてこの「私」が住んでいるのが、認知症の世界なんです。
この記事も認知症の方の世界について書いています
「認知症の人の事例「先生のお話」 認知症の世界を理解して飛び込んでほしい」
認知症の人の言動は、はたから見ていれば不思議であったりやめてほしいものだったりすることが多々あります。
多々です。
どうしてそんなこと言うんだ、どうしてそんなことするんだと、周りの人が困ることがとてもある。
でも、認知症の本人からすれば、自分の世界こそが真実。
意味のある言動をしているわけです。
その世界を無理に捻じ曲げようとすると、生まれるのは混乱のみです。何も解決しません。
何となく、認知症の世界についてご想像いただけたでしょうか?
ご想像いただけたと信じ(←)、次にいきましょう。
認知症を否定してはいけない理由
認知症に対する正しい対応についてはこの記事にも書いていますが
さらにもう一歩、踏み込んで考えてみましょう。
最近は認知症がきちんとした(という言い方が正しいかはさておき)病気として認識されてきたので、医師が本人に
と宣告し、病状を説明するケースが増えてきました。
とてもいい傾向だと思いますし、私の利用者さんには数人、自分が認知症かもしれないと思って、自ら受診された方がおられます。
ですが。
みんながみんなそんなにスムーズに病名を聞くわけではないし、そんな簡単な病気でもないのが事実。
いったんは「自分は認知症である」と理解しても、忘れてしまうことだってあります。
そういう病気ですからそりゃ仕方ない。
認知症という病気がメジャーになり、医師が本人にきちんと話をするようになって、それはそれでいいことだなと思う反面、メジャーになったがゆえにちょっと気になることも増えてきました。
本人に認知症である自覚を持たせたがる家族
これが最近とても多い。とてもとても多い。というか増えた。増えました。
認知症であることをきちんと本人に理解させようとする家族さんがとても増えたのです(まだ言う)。
これ昔はなかったですね、「認知症」って、何となく恥ずかしい病気のイメージがあったからかな?
恥ずかしいというイメージが払しょくされたのは喜ばしいとは思うんですけど、医師が本人に宣告する機会が増えたせいか、家族さんまで
「認知症なんだから!」
「先生言ってたでしょ!」
何て言っちゃう場面がとても増えたんです。
どういった場面で言われるかというと、例えば医師から、認知症だからデイサービスに行くほうがいいと言われたとか、薬を飲むように言われたときですね。
でも本人には認知症の自覚がないと。
もしくはきちんと説明されたけど忘れていると。
だからデイや服薬を拒否していると。
まあそりゃ困る。困ります。
なので、とても一生懸命に説明するわけです。
「お母さん、家の中でこもりっきりだと認知症が進むよ。先生もデイサービスに行ったほうがいいって言ってたでしょ?」
正論です。ど正論。
先生が言ってたんだからど正論。
でも、自分を40歳だと思ってるとまではいかなくても、認知症であることなどみじんも自覚していない人がこう言われたらどう思うでしょうか。
「は?何言ってんの?」です。
「私のこと、ボケ老人扱いする気?」です。
「私のことボケてるって言ってこの家の財産狙ってんでしょ!」です。
ほんとこうなるんですっていうか、過去の実例をもとにお送りしております。
ようするに、最近、認知症であることを本人に理解させようとする家族さんがとても増えたんですよ。
そりゃもう切々と説明する。
きちんと説明したうえで本人に納得してもらって、治療や介護計画をすすめようとする。
それは悪いことではないし、本来は理想の形ではあります。
この理想がうまくいく人もいないわけではないんだけども、悲しいかな、こじれちゃう人の方が多いのが現実。
認知症というのはかなりデリケートな疾患で、それだけにはなりたくないと思っている方がほとんどなので、家族さんから認知症認知症言われると、関係性が悪くなることがあります。
自覚も持ちにくい病気ですしね。
だから、無理に認知症であることを理解させようとするのは、やめといたほうがいいですよというのが、ケアマネである私の意見です。
ちなみにモニタリング訪問等、私のいる場でこの説得が行われることも少なくなくて
「ケアマネさんもそう思うでしょ?」
「ケアマネさんからも、認知症なんだからって言ってください」
て言われたりするんですけども、基本半笑いでスルーします。←
普通の物忘れと認知症の違い
さて、認知症の世界について少しご理解いただけたと信じ(←)、本人に認知症の自覚を持たせることはなかなか難しいこともご理解いただけたと信じ(←)
じゃあどうしたらいいんですかという話にいきましょう。
結論から言いますと、こちらが認知症に合わせるしかないです。
おむつ等の介護拒否がある方に関しては、こちらに対応方法を書いているのですが
基本的には似たようなものですね。
まずはその行動や発言の原因を探る。
そしてその理由に寄り添う。
ていうけど、まあそれが簡単にできりゃあ苦労しない。
寄り添ってられない言動というのが、認知症の症状として起こる場合が得てして少なくないのです。
被害妄想とか作話とか、何回同じことを言っても忘れてしまうとか、逆に何度も同じことを聞いててくるとか。
意外とダメージ来るんですよねこの何回も同じこと聞かれるのって。
「さっき言ったじゃない!」
「何回も言わせないで!」
となる。
さっき懇切丁寧に説明した時間返せってなる。
でも、ご本人からすると初めて聞いてるんです。
忘れているということは、イコールなかったことです。
ご本人はフレッシュなのです。
なのに何か質問して
「さっきも言ったでしょ」
とか怒られちゃうと
「聞いてないのに!」
と意地悪されていると思ってしまったり。
そう、認知症の対応をするにあたり、必ず頭に入れてほしいこと。
忘れている=本人にとってはなかったことなんです。
よく聞かれる普通の物忘れと認知症の違いないんですが、ざっくり説明すると
朝ごはん何食べたか覚えていないのが普通の物忘れ
朝ごはん食べたことを覚えていないことが認知症
朝ごはんのメニューを聞いて思い出すのは普通の物忘れで
「いやそれ私食べてないよ」きっぱり言うのが認知症
認知症の場合は、その部分の記憶がすっぱりなくなってるので、説明しても思い出せません。
なんだけど、ふとした拍子に思い出したり。
どっちやねんとお思いでしょうが、認知症ってほんと千差万別なので、一概にこうなってこうなってこう対応すると良いですよ☆とは言いにくいんですよね。
人によって症状も違うし、その人の背景に合わせてどう対応するのかを考えないといけない。
そもそも認知症の症状って、物忘れるだけじゃないじゃないですしね。
認知症でも物忘れしない人もいるし。
認定調査の認知症の項目だけで15項目あるし。
怒りっぽくなるとか物を隠すとか一日中ご飯食べちゃうとか逆にご飯食べるの忘れるとか、認知症の症状はさまざま。
そのさまざまな症状に対して、個別の対応方法を考える。
その人ごとに正解はちがうのです。
本人の世界観を崩さないように対応しないといけない。
そうじゃないと混乱し、余計に症状がひどくなることもある。
40歳のマーママにするような対応をしなくてはいけません
(是難題)
そうなると、やはり認知症の正しい対応方法は、
家族だけではなく、介護サービスを利用して、事業所とも情報を共有して、認知症の症状に対処していく
これしかないと思います。
家族だけで、ああしたらいいかなこうしたらいいかなと悩んでも、よくなる認知症はないんです。
認知症の人こそ介護サービスを利用するべき理由
認知症の人に特におすすめのサービスはデイサービス。
外に出て、家ではない場所で他人と触れ合うというのは、本当に良い刺激になります。
家では認知症状がみられるのに、デイではシャンとしている、そんな人がたくさんいます。
それは、誰でも赤の他人にはええ顔をしたいから。
家でぶすっとしている人が、あまりにもデイではにこにこしてええ人に変身するので、
「家と全然違うじゃないの!」
と、家族がいらつくこともあるほどです。
が、いらついてはいけません。
耐えましょう。ぐっと耐えましょう。
その「ええ人になっている」時間が増えれば増えるほど、それ以外の時間も穏やかになる時間が増えるし、認知症状が落ち着いたりするんです。
幸せな時間を多く持つというのは、認知症治療にはとても大切なこと。
何が原因で幸せだったかは忘れても、幸せな感情というのはいつまでも残るので、情緒が安定します。
どうしてもデイ利用を嫌がる人の場合は、訪問介護に来てもらうとか訪問看護に来てもらうとか、とにかく他人と触れ合う時間を増やすのがおススメ。
私たち介護のプロはいろんな認知症の方を経験してますから、80歳のマダムが
「ちょっと!今日早く帰って買い物行って晩御飯作らないといけないんだけど!」
とおかんむりでも、
「今日は何かみんな外で食べてくるって言ってましたよ」
とか、秒でウソ違う話を合わせることができます。
帰宅願望がひどく、家に帰りたいと訴える入居者さんに
「私も帰りたい!」
と泣きまねし、逆に慰められる荒業かましてみたり@施設職員時代@でもこれ1日10回以上してた@最後わらけてくるから注意
「出口一緒に探そう!!」
と共に出口を探す旅に出たり@そして施錠している出入り口まで来て@ちくしょう鍵がないぜと嘆くまでがデフォ
とにかく家族では難しいあの手この手を使えるのが介護職のココ!!(腕ぱんぱん!!)
ココのみせどころ!!(腕ぱんぱん!!)
だからプロにお任せください!!(ぱん!!)
認知症を家族だけで支えることは絶対にできません。
でも介護サービスを利用することで、認知症が完治することは難しいとしても、進行を食い止めたり、症状を落ち着かせたり、何より家族の介護負担を軽減することができます。
もしご家族が認知症であったり、お知り合いが認知症だったり、そうじゃなくても知っている人が認知症であれば、以上のお話を少し頭に残していただき
その人の世界を否定しない
介護サービスを上手に活用する
この作戦を実行しつつ、お互いに無理なく生活していただければ、これ幸いです。